遊びたい気持ちは一緒でも遊べないことってあるよな
娘は幼稚園の年少さんで、少々暴力的なお友達がいる。
何もしてないところに近寄ってきてはマスク引きちぎられたり、引っかかれたり、髪ゴム取られたり。
もともと二学期から仲は良くて、その頃はただの「仲良しのお友達」という認識でいた。当時は嫌なことをされると娘もやり返していて、先生が間に入って二人を引き離す、という状態だったみたいで、まだまだ子どもだからそんなもんだよなあ、先生ほんとにありがとう…と思ってた。
だけど三学期に入って、娘が自制心というものをつけだして、大泣き癇癪当たり前だった娘が周りを見れるようになった。家でも悪いことをしたらすぐに謝れるようになったし、園で悪いタッチをすることもかなり減った(先生談)。
すると例のお友達とは温度差が出来てしまう。娘だけが一足先に成長したから、これまでのような遊び方ができなくなる。
先生から、「彼女と遊びたいけど遊べなくて、黙って悲しそうに見ている」という報告を受けた。
そのあたりから、幼稚園大好きマンだった娘が少しずつ登園を渋るようになった。楽しくない、家で遊んでいたい、と。
先生も、元気がないみたいでと心配そうだった。
「Aちゃん(例のお友達)は娘ちゃんのことが嫌いなんだと思う」
「Aちゃんはどうして悪いタッチをしちゃうんだろう」
元気のない娘に私は、お手紙を書いてみたらと声をかけた。
すると娘は、「悪いタッチやめて。ほんとうに嫌だからやめて。とにかくやめて」みたいな手紙を書いた。
Aちゃんの好きなところはと聞いたら、大きな声で笑うところ、なんてニコニコ応えていたからそれも書いたらと言ったけど、時既に遅しだった。
まあ、いいか…とOKを出し、「それをAちゃんに渡したら」と言うと「Aちゃんはびりびりに破いちゃうと思う」とこれまた悲しそうに、しかし確信を持って何度も言うものだから、「じゃあまずは先生に渡したらいいよ」といって送り出した。
その日は何もなかった。先生に紙を渡したらしい。
翌日、またAちゃんが娘に手を出したらしい。顔に小さなかすり傷を作って帰ってきた。
翌々日、先生が帰り際に間に入って、手紙をAちゃんに渡した、とのこと。
さてどうなるか。
その日は何もなかった。
翌日のあさ、子どもを送り出したあと、Aちゃんのお母さんから丁寧なメールが届いた。
園に確認し、娘が手を出していると聞きました。娘は娘で、うまくいかないことがあったり一人でいたい時に娘と遊びたそうに近くをうろつかれるのにイラッとしてしまうみたいで、だからといって手を出すのはいけないし、今とても頑張って抑える練習しているところだがなかなかうまく行かず大変申し訳ない、というようなことだった。
お互い成長を見守りましょうという話をし、互いに子どもが好きなアニメの情報を交換し、仲良くなるきっかけを模索したりした。
しかし、なかなかうまくいかない。
相変わらず娘は顔に引っかき傷を作って帰ってくる。
次第に娘は「誰にされたの?」という質問に応えなくなった。
「Aちゃんやろ?」
「忘れた」
ママがAちゃんのこと嫌いになったら嫌なん、と尋ねると娘は首を縦に振る。Aちゃんも悪いタッチしないように頑張ってるんだよ、でも出来ないの、とかばう発言も見られた。
そのまた翌日の降園時。
娘が何か言うよりもさきに、同じバス停の頼れる年長さんが教えてくれた。
「娘ちゃんね、目の上をAちゃんにがりってされたんだよ。それでわたしが冷やしてあげたの」
娘の顔を確認。もう傷はどこにもない。
ありがとう年長さん。
菓子折り渡したい気持ち。
帰り道みち、ちょっとずつ娘から話を聞きだす。
娘はAちゃんと一緒に遊んだ。それは楽しかった。でもそのあと、娘が作業をしているときに不意に近寄ってきて、手を出された(髪ゴムも取られた)。娘は「わーーーーっ!!!」と大きな声を出した。先生が来て、だめだよ!とAちゃんを叱った。娘ちゃんは泣いた。
「先生、ぷんっぷんにおこってた」
ぷんっぷんという娘の言い方がとてもかわいい。
しかし、なんだかなあ。お母さんには悪いけど、さすがに私もAちゃんには近づかないでほしいかも…という気持ちになってきた。だって目とか怪我したら洒落になんないし。怖い。怖いよう。
「べつにAちゃんと遊ばなくてもいいんじゃない?」
「うん、〜くんと、〜ちゃんとも、遊ぶよ」
Aちゃんとはもう遊ばないとは決して言わない。
「Aちゃんの悪いタッチは嫌いだけど、Aちゃんは好き」
そんなことを言うくらいには、娘はAちゃんのことが好きなのだ。振り向いてもらえないと余計に気になってしまう、という例のやつもあると思う。
とにかく気になるみたいで、朝、着替えを選んでは「この服、Aちゃんが可愛いって言うかも!」「今日はAちゃんと遊べるかも!」なんて言う。
けなげすぎて胸が痛いぜママ。
どうか今日も無事で帰ってきますようにと、心のなかで何度も念じながら一日を過ごした。
お迎えの時間、娘がにこやかな笑顔でバスから降りてきてほっとする。
今日はどうだったとこちらから尋ねる前に、娘が笑顔で言った。
「今日はね、Aちゃんに優しくしてもらったの。紙で三編み作るの、手伝ってくれたしね、あとはね、いっぱい優しくしてもらったけど、もう忘れちゃった」
「そっか、じゃあまた思い出したら教えて」
昨日のことを、Aちゃんはお母さんに伝えたのだろうか。今日は娘に優しくしようと、どう優しくしたらいいだろうと、そんな話をしたのだろうか。
昨日髪ゴム取られましたが今日娘は優しくしてもらったと喜んでいましたと、お母さんに連絡したほうがいいだろうか。Aちゃんにもそのほうが良いだろうか。いや。やっぱり大騒ぎしないほうがいい。まずはAちゃんの自分の気持ちを、小さな変化を感じてほしい。連絡するのはやめとこう。
娘の園かばんには、手伝ってもらったという三編みがくくりつけられていた。
「先生がね、ここにつけてくれたの」
ああ先生も。先生の多大なご苦労あっての、この三編み。くくりつけた先生の気持ちが伝わってくる。
「じゃあ、今日はAちゃんに悪いタッチ一つもされなかったの?」
「した。わーーっ! て、大きな声出された」
「それは娘ちゃんもしてるやつやん。それだけ? 手は出してこんかったん?」
「うん、なかったよ」
「凄いやん。二人とも成長したなあ」
お昼ごはんを食べながら娘に言うと、意外な言葉が返ってきた。
「ね?言ったでしょ。いつか、きっと、仲良く遊べるようになるよって」
ほら見ろといわんばかりの、誇らしげな横顔。もうお腹いっぱい、と昼ごはんを残した。
娘の年少がもうすぐ終わる。
この一年でこの子がこんなにも大きくなるなんて、私は想像もしていなかった。